0080 梶ヶ森で自然環境調査

2018.06.19

カテゴリー: 活動報告

昨年から山荘梶ヶ森の運営を行っている弊社・相愛。

昨年新設した「自然環境調査課」のスタッフとも連携して梶ヶ森周辺の自然環境を十分に把握し、その魅力を県内外に発信するため「環境調査」を開始することになりました。

梶ヶ森頂上から望む山荘梶ヶ森。

 

大豊町さんのご協力もあり4ヵ年計画で取り組むこの調査ではまず初年度に、龍王の滝より上の植物調査・動物調査(両生類、爬虫類、哺乳類)を行い自然散策マップを制作し山荘内部にギャラリーを構え展示を行う計画(展示物は随時増やす予定)。

調査の結果を踏まえてトレッキングルートのバリエーションを増やすなどの検討も加えていきたいと考えています。

 

第二年度は、龍王の滝より下の植物調査、動物調査(昆虫)調査等の実施を計画。

第三年度は、動植物相やその特徴を紹介する自然観察ガイドブックの作成、水生生物調査、自然観察イベントの企画までを計画。

 

集大成ともなる最後の年は、山荘内のギャラリーを完成させ、バリエーションを増やしたトレッキングルートと自然観察イベントの仮始動大豊町が推進している民泊型「山里暮らし体験プログラム」の中での活用を計画。

運営する山荘梶ヶ森を中心に、梶ヶ森地域の魅力を把握し、余すところなく楽しむための企画をいろいろ考えていきたいと模索中です。

 

そのための基礎となる各種調査のここまでの調査の進捗はと申しますと…。

 

まずは植物調査。

4月23日に龍王の滝~定福寺奥の院、および天狗の鼻周辺までの踏査を行い、山荘を中心とした登山ルートの植生を調査。

花や巨木など登山者が興味を持ちやすい植物から優先的に調査を行っています。

植物の専門家の方にご協力頂き、山荘スタッフも一緒に調査しました。

高知固有種のトサノミツバツツジが生育していました。

同じく高知固有種のトサコバイモも発見。

植物調査はあと2回(夏休み中と秋の花が咲く頃)行う予定です。

 

つづいて哺乳動物の調査。

4月10日に山荘中庭の下あたりにセンサーカメラを設置し、哺乳動物の生息調査をスタート。これまでに数々の小型中型哺乳類の撮影に成功しています。

センサーカメラで撮影。ニホンジカが悠々と歩いていらっしゃいました。

こちらはタヌキさんですね。

ノウサギちゃんもたくさんいらっしゃる模様です。

 

その他にも、ネズミ科の動物、ハクビシン、アナグマなどたくさんの動物が写っておりました。

センサーカメラによる哺乳動物の調査は通年行う予定です。

 

さらに両性爬虫類・サンショウウオ類の生育調査は3月~5月にかけ計4回実施。

サンショウウオ類は四国では概ね標高1000m付近にしか生息しておらず観察できる場所は県内でもわずかしかないとのこと。

これまでの調査でイシヅチサンショウウオを発見、その他生息の可能性のあるコガタブチサンショウウオ、シコクハコネサンショウウオを見つけるまで調査に望む意気込みです。

 

で、もって今回のテーマはコウモリ調査&ネズミ他小型哺乳類捕獲調査。

5月23~24日の調査に密着させていただいた模様を詳しくレポートさせていただきます。

調査のベースキャンプともなる山荘梶ヶ森。あいにくの雨でした。

朝からサンショウウオ調査に出かけていた相愛・自然環境調査課の2人が調査から戻ってきました。何やら手応えがあった模様。

「サンショウウオの幼生と成体が捕獲できました!」

雨でずぶ濡れにも関わらず朗らかな自然環境調査課・近藤と高橋。

成体2匹。

幼生3匹。

ずぶ濡れにもかかわらず同定を急ぐ近藤。

「やはりイシヅチサンショウウオやね」。

 

これまで捕獲できてない種ではありませんが、幼生と生体を同時に発見できたのは初めてのこと。

数も多く、さらなる調査に期待が高まります。

※もちろん今回捕獲したサンショウウオは種の確認を行った後、元の場所に返しております。

そうこうしているうちに四国自然史科学研究センターの御一行様到着。

四国自然史科学研究センターさんは、野生動物の基礎調査・研究を行うNPO法人で、上記調査・研究の結果を元に、地域生態系の保全や環境の復元を目指す他、四国全体の自然史科学研究の拠点作りや情報発信、教育機関とも連携した後継者の育成までを視野にいれ活動を続けられてる団体。

 

今回相愛では、四国自然史科学研究センターさんが行う学術調査に協力する形で調査を行うことになりました。

今後は共同で研究を行う予定で、センサーカメラやネズミトラップ(これから記事に出てきます)の設置については相愛としても設置の許可申請を行っております。

さっそくネズミのシャーマントラップ(折りたたみ式ネズミ生け捕りワナ)に仕掛けるエサ作りに励む弊社・高橋。

濡れネズミの頭も乾かさず、わびさび感がにじみ出ています。

ふたたびカッパを来て、ネズミを捕獲せんとす濡れネズミの2人。

シャーマントラップにエサを仕込み中。匂いにつられて入ったら蓋がしまって出られない仕組みになっています。

山荘床下のこんなところや。

こんなところに仕掛けます。

 

今回は20個のトラップを山荘の周辺に仕掛けました。

一晩放置して、ネズミ他小型哺乳類を狙います。

ついでにセンサーカメラから録画されたメディアを回収します。

このアングルで撮影しています。山荘すぐ下のポイントですが、たくさんの動物が出没しているんですね~。

動物さんぜひ映りに来てください。

びしょ濡れのまま、映った動物をチェックする2人。基本生き物好きなのです。

後ろで覗き込む山荘スタッフ松下もしかり。

 

この日のチェックでは、センサーが過剰に反応して有効な撮影ができていないことがわかったのですが、メンテナンスはまた後日。本日のメインイベント・コウモリ調査いってみよう!

コウモリの飛びそうなポイント調査中。

 

コウモリは夜間エサになる虫を捕食するために飛ぶので、虫の生息する水場が近くにある方が、かかりやすくなります。

さらに、こういう周りを木に囲まれたところだと中央の部分を飛んで抜けるしかないので、仕掛けた捕獲用トラップにかかる可能性が高まります。

四国自然史科学研究センター代表の谷地森秀二さん。

「ここはいけるかもしれませんね。仕掛けてみましょう」。

そんな話をしつつも、さまざまな生物を発見し喜ぶセンターの方々。

同じく基本生き物好きなのです。

申し遅れましたが右が多田さん、左がゲスト参加の西澤さん。

西澤さんはなにわホネホネ団の団長さんです。

ちょと珍しい白い色のサワガニを発見しました。

梶ヶ森はサワガニの宝庫。赤、茶、青、白などさまざまな色のカニが生息しています。

でっかいアワマイマイ(かたつむり)も発見。

 

そんなこんなしている内に日も傾いてきました。

コウモリ調査のためのトラップを設置していきましょう。

谷地森さんの指示で捕獲器具・ハープトラップを組み立てる面々。

通り抜けそうな空間を塞ぐように仕掛けます。

楽器のハープのような線が貼られています。

なのでハープトラップ。飛んできたコウモリがこのハープにひっかかり下の捕獲袋にポトリと落ちる仕組み。

1体38万円のお値打ち品です。

スペースが広いので2台設置することにしました。合わせて76万円!

ちなみにこの写真のタイミングで参画した左の赤とオレンジのヤッケは、後発隊の相愛職員、鈴木(左)と森近。以後お見知りおきを。

雨が降ってたので下の捕獲袋を後で設置することにして、ほぼ完成。

コウモリさん逃げ場ナッシング。

 

次のポイントに向かいます。

2番目の設置箇所。梶ヶ森の源流点にトラップを運びます。

梶ヶ森源流点。「土佐の名水」認定の県知事プレートが設置されています。

わさわさとトラップを組み立て始める一行。

まだかぼそい沢の流れの上に設置します。

ちなみにこのポイントで参画した中央の黄色い方と左の青いヤッケは地元大豊町で塩かえる農園を営まれている塩谷夫妻。

生物好きとあって、農作業後に合流です。

傾斜地で難儀しましたが、無事設置完了。

雨がやんできたので捕獲袋も付けました。

こちらがコウモリがポトリと落ちる捕獲袋。

返しがついて這い上がれない仕組みです。

最後のトラップはまたところ変わって山荘近くに設置。

すっかりあたりは暗くなってまいりました。

 

現在時刻は午後7時前、3箇所4台のコウモリトラップ設置終了。

この後、午後9時、11時、翌朝5時に見回り、捕獲したコウモリの調査を行う予定です。

 

捕獲されたコウモリは逃げられないので、朝1回の見回りでもいいように思うのですが、谷地森さんによると、夜早い時間にかかったコウモリはエサの捕食前である可能性が高く一晩トラップの中で空腹で過ごすと成体に大きな負担をかけてしまうのだそうです。なので、夜のうちにも巡回を行いコウモリにやさしい調査を心がけています。

山荘に帰って和む面々。「いやあやれやれ一汗かきましたね」。

 

谷地森さんによると、この時期はコウモリの出産期の始まりで、行動範囲が狭くなり

見かけるコウモリの数も少なくなるとのこと。

さらに、雨が降っているとエサの虫が飛ばなくなるので、コウモリも不要な外出は避けるのだとか。

ちょっと厳しめの捕獲予測が出されました。

晩ご飯までの時間に山荘・研修室を見学する面々。

現在、谷地森さんたちにご協力いただきツキノワグマ関連のパネル展示を行っています。この研修室を将来的にはギャラリーにして梶ヶ森の生物についての展示を行う予定でおります。

晩ご飯のメインディッシュは、大豊の地野菜がふんだんに入ったキッシュ!

大変おいしゅうございました!

 

さて、戦士の休息ディナータイムもあっという間に終わりコウモリトラップ見回りタイム! 夜9時です。

超音波測定装置でコウモリの発する超音波を調べる谷地森さん。

「…無音です」。

最初に仕掛けたトラップ。

「…」。

続いて源流点トラップ。

「…」。

最後の山荘下トラップ。

「…」。

「ああ、コウモリは何処に…」。

 

谷地森さん

「やはり雨の影響が出たと思います。超音波も全く出ていないので、今夜の11時の巡回は中止して、朝にかけましょう」。

 

う~んやはり雨の日は捕獲が難しいのか、確かにコウモリが飛んでいる気配すら感じられません。

気を取り直してネズミのトラップをチェックしていると…。

フタがしまっていて、入っているっぽいのを発見&回収!

慎重に確認しみると…。

いた! ヒメネズミかな?

手作りした観察用の容器に移動。

してたところが! 脱走!!

一同大騒ぎ!!

個体が小さく、脇の穴から脱出された模様。無念!

再度逃げ込んだあたりにトラップを仕掛けリベンジを狙うことにしました(結局この仕掛けには入らず…山に帰られた模様です)。

明日の巡回調査に向け、遅くまで対策を練る調査隊一同。

山荘・梶ヶ森、こういう集まりには最適です!

 

谷地森さんによると、四国で確認されているコウモリの種類は16種。

内11種は四国自然史科学研究センターが定期的に調査を行っている天狗高原で確認されています。

 

特に、子どもが飛び始める9月にはたくさん捕れる傾向があり、これまで多いときで70頭も捕獲できたことがあるのだそうです。

梶ヶ森もコウモリの生息する条件は整っているので、期待が持てるポイントなのだとか。

明日の朝への期待が高まったところで一同就寝となりました。

朝5時調査巡回開始!

1ポイント目、静かな森の日常…。

2ポイント目源流点、…さっ撤収撤収。

3ポイント目山荘下ポイント、丹念に見回すも…ナッシング。

疲労と寝不足もあり一同落胆し、言葉数も少なめ…の中、奴がかかってました。ネズミです!

「なんかおりますよ~」。

いた!

少し元気になりトラップを回収する面々。

さっそく調べてみましょう。

一つ目のトラップを開けたところでネズミでない生物がポトリ。

突然にぎやかになる調査隊。

モッ…モグラ??

 

いやいや違います。モグラ科ではあるのですが、ヒミズという生物。

その中でも珍しいヒメヒミズの可能性もあり、現在、四国自然史科学研究センターさんで詳しく調査を行っていただいております。

続いて登場致しましたるは…。

ヒメネズミちゃん。

さっそく計測をしようと思っていたところで…。

また脱走! 昨晩の再来、大騒ぎ!

結局見つけられず…山に帰られた模様です。

体躯の計測はできませんでしたが、谷地森さんの目は秒殺で特徴を把握。

授乳痕のあるメスであることまで確認できました。

次はことさら慎重にことを運ぶ面々。

捕獲完了。「チュウ~」。

体重を測定。

後側長(左後足の踵~肉球まで)を計測。

体重38.3g、後側長23.43mm、オスのアカネズミさんでした。

続いては、体重12.3g、後側長19.63mm、オスのヒメネズミ。

ちっちゃかったです。

最後は、体重14.9g、後側長20.21mm、オスのヒメネズミ。

計測が終わったらリリースします。

大自然に帰って行きました。また来てね~。

 

コウモリは不発でしたが、ネズミ他小型動物に関しては20個中6個のトラップで捕獲出来ましたので、なかなかの高確率だったのではないでしょうか。

梶ヶ森につて、講評を行う谷地森さん。

「コウモリは残念でしたね。シーズンもありますがやはり天候が良くなかったのだと思います。

梶ヶ森は独立峰なので、他から渡ってきてないのではないかという方もいますが、飛翔距離がかなり長いので、影響はそれほどないのではないかと思います。

昨日も言いましたが梶ヶ森にはコウモリの生息する条件が整っているので、いないと考える方が不思議です。

まだ初回の調査ですので、これから夏、秋と回数を重ねていかなければならないと思います。

 

中型の動物はセンサーカメラにだいたい映ってましたね。

このあたりは動物は種類、数ともに豊富だと言えます。

小型の動物も今回のトラップ調査でたくさんの生息が確認できました。

条件の合う哺乳類はほぼ生息しているようですね。

 

それと、各地で下草・低木類に食害をもたらしているシカですが、梶ヶ森ではまだ笹が残っていて、重篤な状態までは至っていないようです。

ただし、シカの食害はあっという間に広がりますので、希少な植物にはピンポイントでネットを被せて保護するなど早め早めに手を売っていかなければならないと思います。

動物調査全般に関しては、後々ヤマネとモモンガの生息も確認したいですね。

巣箱とカメラをセットして行う調査で我々は「ヤマモモ」調査と呼んでいます。

いずれにせよ、まだ調査が始まったばかりで、サンショウウオ始め哺乳類も多数確認できているので、今後に期待したいと思います」。

             ●

以上、いかがでしたでしょうか

「梶ヶ森周辺自然環境調査」の模様。

今回のコウモリは残念でしたが、梶ヶ森には草花といい、サンショウウオといい、センサーカメラや捕獲で確認できた小型・中型哺乳類といい豊かな生態系が育まれていることが分かってきました。

 

今は白紙の自然散策マップが、これからいろいろな動植物で次々と彩られていくことでしょう。

山の清涼な空気、景色、星空だけでない梶ヶ森の自然の魅力を皆様もぜひ楽しみに遊びに来てください。

お待ちしております~。

山荘スタッフ&梶ヶ森自然環境調査隊一同。

「体験型の調査イベントも企画していきます。ぜひ!」

おまけ、朝の山荘飯もおいしくいただきました!!