0166 高知県内での昆虫類分布調査の結果が四国自然史科学研究に掲載されました

2022.07.05

カテゴリー: 活動報告

【はじめに】

株式会社相愛の自然環境調査課水資源調査部門(近藤、辻󠄀)では、昆虫調査業務の傍ら、地域の生物多様性データの蓄積や生物相の解明を通して地域に貢献すること、社員の技術力向上を図ること等を目的として、高知県内における自主的な昆虫類の分布調査を行っています。

本調査によって得られた成果は、専門の学術雑誌や高知県内の団体が発行する研究報告や同好会誌に記録として投稿を行い、分布データとして地域に還元しています。生物の分布データは、ただ単に採集するだけでは不十分で、適切な文献を使用して種を同定(その種の名前を調べること)し、誰でも閲覧できる媒体に記録として掲載されることではじめて引用可能なデータとなります。引用可能な状態になると、人為的な影響で絶滅に瀕している生物をまとめたレッドデータブックの評価の際に使用する基礎資料、地域の生物目録(その地域に生息する生物のリスト)等での活用が可能となります。

昆虫は、その他の生物群と比較して種数が圧倒的に多いため、網羅的かつ継続的に生息状況をモニタリングするには、多くの人手と膨大な分布データの積み重ねが必要です。そこで我々も、微力ながら積極的に分布記録を投稿し、高知県における昆虫類の分布解明や生息状況の変遷を把握する取り組みを行っております。

アリ調査の様子

調査の様子(高知県立のいち動物公園 ジャングルミュージアム内でのアリ科調査時)

 

【出版された報文の内容】

タイトルの件に戻りますが、最近(20223月)出版された、特定非営利活動法人 四国自然史科学研究センターが発行する四国自然史科学研究という雑誌に、弊社社員の辻󠄀が執筆した高知県における昆虫類の分布記録を4本掲載いただきました。

あまり一般的でない種が多く、種名を見ても中々ピンと来ないかもしれませんが、各報告の概要を簡単に紹介させていただきます。

四国自然史科学研究

※以降は昆虫の写真が掲載されています。

 

  • 「横倉山(高知県越知町)周辺におけるタマキノコムシ科の記録」

当社では高知県越知町の横倉山周辺地域で実施されている【横倉山生物総合調査】に参加しております(魚類、植物、昆虫部門)。本報はその調査で得られた昆虫分野の成果の一部ということになります。

本報で対象としたタマキノコムシ科ですが、驚くと球体(タマ)になるのが名前の由来で、日本国内には約240種が知られております。知名度の高いカブトムシやカミキリムシを含む甲虫目に所属していますが、ほとんどの種が土や落葉の中に生息しているため、街中で生活をしていて出会う確率は低く、一般の方でこの虫を知っている人は非常に少ないものと思います。

本報では、FIT(フライト・インターセプション・トラップ)や篩採集、ピットフォールトラップ、洞窟調査などの昆虫調査方法を用いて、本グループを専門とされている藤谷美文さまにも多大なご協力いただき、横倉山地域における本科の生息状況の解明を目指しました。

結果ですが、1年ほど調査を行ったところ横倉山およびその周辺から、36種のタマキノコムシ科を得ることができました。これら3の中には、未記載種(まだ名前のついてない種)、新種記載以降はじめての記録となる種、四国地方から初めての記録される種、高知県レッドデータブックの掲載種、多くの高知県初記録種などを含んでおります。

また、様々な文献を調査し、高知県におけるタマキノコムシ科の記録を可能な限り収集しました。その結果、我々の調査で得られた種と文献調査の結果を併せて、高知県のタマキノコムシ科の既知種数は52種以上(日本国内には約240種が分布)ということが明らかになりました。

採集されたタマキノコムシ科の一例(報文の図版から抜粋)

 

  • 「高知県立のいち動物公園におけるアリ相」

アリはハチ目アリ科に属する一群で、近年はヒアリなどの侵入でメディアを騒がせたのが記憶に新しいかと思います。危険性ばかりが報道されていましたが、アリは自然環境を可視化する材料の1つとして、とても有用な分類群でもあります。その理由としては、多数の同種個体で構成されたコロニーで生活するため生息地では個体数が多いこと(採りやすい)、海岸から高山まで都市や家屋の中にまで様々な環境に分布していること(どこにでもいる)、専門の図鑑類がいくつも出版されており同定のための資料が豊富なこと(種名が比較的特定しやすい)等々が挙げられます。

我々は高知県内におけるアリ科の分布調査を2020年から重点的なテーマの1つと位置付けており、これまでに、わんぱーくこうち(高知県中央部の「わんぱーくこうち」におけるアリ相)、高知県立牧野植物園で調査を実施してきました。そして2021年は高知県を代表する観光スポットとして広く知られている高知県立のいち動物公園にて調査を行いました。調査の様子は弊社ブログ(0155 高知県立のいち動物公園におけるアリ科の生息状況調査)で紹介しているため割愛いたします。

ブログにも記載していますが、43種のアリ科が得られました。高知県内に分布するアリ科は約110種(未発表データ)であるため、本園ではそのうち約4割が分布することになります。短期間の調査でしたが、想定より多くの種が確認でき、個人的には良い成果が上げられたのではと思っています。また、多くの種のアリ類が得られたことは、園内の自然環境が多様であることの証明にもなります。

快く調査を快諾していただいた高知県立のいち動物公園さまに厚くお礼を申し上げます。

採集されたアリ科の一例

 

  • 「高知県内の落葉落枝層から採集されたゾウムシ科(昆虫綱:甲虫目)」

ゾウムシ科は甲虫目の一群で、現時点で国内から約1,500種が知られる巨大な分類群です。ゾウムシを知っている方は、樹上や木の実に居るイメージを持たれているかもしれませんが、土壌中に生息する種も一定数存在しています。

本報ではそのような種を対象に、高知県内各地で篩採集を行い、採集したゾウムシ科12種を記録しました。まとまった記録の少ないグループですので、貴重な分布記録として地域に貢献できたのではないかと思います。報告の際には、本グループを専門とされている瀬島翔馬さまに多大なご協力いただきました。

採集された土壌性ゾウムシ科の一例(報文の図版から抜粋)

 

  • 「四国地方2産地目となるヤマトビイロトビケラを高知県で採集」

“トビケラ”というと、幼虫は水中にいて成虫になると陸上に出てくる、という認識を持たれている方が多いかもしれません。実際に大多数のトビケラ目はその生活史なのですが、本報で扱ったヤマトビイロトビケラは例外的に幼虫も成虫も完全に陸生です。

昨年度、天狗高原でアリ類の観察会を行わせていただく機会があり、その際に篩採集によって本種が得られました。四国地方では、これまで愛媛県の1産地でしか確認されていなかったため、本記録が高知県初記録および四国地方2産地目となりました。

本報の執筆にあたり、トビケラ目を専門とされる野崎隆夫さまに多大なご協力を賜りました。深く感謝を申し上げます。

採集されたヤマトビイロトビケラ(報文の図版から抜粋)

 

以上の報告が掲載された四国自然史科学研究は特定非営利活動法人 四国自然史科学研究センターに入会すると冊子を入手できます。また、後日ですがJ-STAGE上でpdfが公開される予定です。部数は限られていますが、ここで紹介した各報文の別刷(紙媒体)もありますので、ご興味のある方がおられましたら御連絡ください。

昆虫担当:辻󠄀) y.tuji☆soai-net.co.jp(☆を@へ変換して送信ください)

 

 

【おわりに】

弊社では業務としての昆虫調査も随時承っております。敷地内に生息する昆虫が知りたい、昆虫調査業務の委託先を探している等の昆虫調査に関するご要望がございましたら、上述のアドレス宛へお気軽にご相談ください。